投げ釣りをやっておられる方で、ある程度投げ釣りに対する自信が付くと、
もっと上手くなりたい・・と
投げ釣りクラブに入って同好の士と友に切磋琢磨される方が沢山おられます。
私もその一人ですが、釣りクラブに入るとそのクラブの上部組織が有り、
私の場合は全日本サーフになる訳ですが、その全日本サーフでは発足当初より、
キス、カレイを中心に全国大会や競技会を催していますし、近年では大きな釣具メーカーが
主催するキス釣りトーナメントも多く開催されています。
ここではキス釣りトーナメントについてお話をしますが、先ずこのキス釣りトーナメントに関しては
キスの資源保護、釣り場の環境保護、浜の独占使用の観点から批判的な意見も有り、
単に「釣りの原点で有る魚と人間との対話がそがれる」と言われる方もおられますが、
環境に対しては各競技会共、ゴミ問題等、配慮して行っていますし、大概は広大な浜の一部を使用しての競技となり、
一般の釣り人と混同しつつの大会も多く、長時間に渡って浜を独占しているのでは無いので、
私も大会の意義、効用に賛同し、釣り人相互の交流や技術向上の為、毎年多くの競技会に出掛けています。
漫然とそこで得られる釣果のみを追っている普段の釣りと違い、競技会は一匹、1グラムを争う釣りとなりますので
釣る事に対する真剣度が違い、釣技も向上します。
効用その@ 自分の釣技術のレベルが判り、
今後どうすればもっと向上するのかを容易に知ることが出来ます。
競技会に出ると、おのずと順位が決まり、
時には決勝で良い所まで行けたり、予選であえなく敗退したりとムラは有りますが
何回が連続して出場し、平均してみると、大体自分が全国的にどのレベルなのかがはっきりと判る・・と言うよりも
思い知らされます。 その意味では毎年同じ大会にだけ出ずに、
いろんな場所に、時期を選ばず試合に出る事が大切で
この浜なら得意でいつも上位を取れると自画自賛していても、
他地方の釣り場ではさっぱり・・・全く歯が立たなかった・・.
ではオールラウンドなキス釣り師とは言えません。 トップはなかなか取れなくても
何処の浜でも平均以上の結果を出すキス釣り師のほうが釣り場に対する対応能力が高いと言えますし、
対応するだけの「手駒」を多く会得していると思います。
その手駒を上手く使えばその浜のツボにはまり、優勝も夢ではありません。
また、その大会が行われる浜にはその浜を得意とされている釣り人が必ずおられ、
その浜の名手が手駒をどのように使っているのかを勉強する事が出来ます。
従って私はその浜でいつも上位を取っておられる人にわざと付いて行ったりしますが、そこで得られた
技術やノウハウは必ず次の大会で生きてくるものです。
「来年の為に・・」と思って、その時の大会での成績はそこそこでも
技術を少しでも教えてもらえれば、収穫が有ったと喜んで帰って来られるのも
「大会」そして「交流」の場があるからこそです。
大会で得られる情報やノウハウはプライベートの釣りで得られる量とは比較にならない程多く、
それを確実に吸収する事は釣技の向上にとても役立ちます。
効用そのA 無駄を極限まで省く釣りを勉強できます。
競技会では、釣り技術もさることながら、キスを掛ける動作、いわゆるさびく時間が多い釣り人程、
沢山釣れるのはあたりまえの事で、逆に言うと、空中や陸上に仕掛けが有る時間が長い程、釣れない訳で、
仕掛けを巻き上げてから、いかにして早く海中に仕掛けを運べるかが、
勝負を決すると言っても過言ではありません。
早くキスを外す、エサを付けるのはもちろん、仕掛けの交換に要する時間をいかに切り詰めるか、
そして高切れ等のトラブル発生からいかにして早く復帰出来るかが競技会では問われ、
もたもたと浜で仕掛けと格闘している時間が多いようでは他人に遅れを取り、とても上位の成績を残せません。
よってトーナメンターは仕掛け交換や高切れの時の対応をなるべく短時間で済ませるように
仕掛けや換えスプール、そして力糸や天秤などをいつでもさっと取り出して装着出来るようにクーラーを改造したり、
鋏ひとつ取っても自分が使いやすいものを吟味しています。
もちろん、「結び」の技術向上も欠かせません。いかに早く道具を取り出せても、
この「糸を結ぶ技術」がトロくては話になりませんので
上級者は確実に結べ、結束強度が有り、且つ早い結びをいつも練習されていますし、
簡単に取り外し、結合出来る結合用の小物も研究が進んでいます。
また、予備品を多すぎず、且つ切らさない程度に装備するのも腕の見せ所で、
まるで大名行列の荷物持ちのようになんでもかんでも釣り場に持ち込むようでは、移動もままならず、
他人の後をヒーヒーと追う事になります。釣り場の状況にもよりますが、
ベタ凪で空いているようならトラブルは少ないと判断して
天秤や換えスプールなどは少なめ・・・逆に流れ藻や強風、
そして混み合っているようならトラブルが多発すると予測して
多めに携行する・・と調整しておいてから釣り場に出掛けないと、
使いもしない重い天秤を沢山持ち歩かねばならなかったり、
逆に釣り場ですぐに予備品を使いきり、釣りが不可能になったり、
車まで取りに帰らねばならなくなります。
荷物はコンパクトにまとめ、且つ取り出しやすい装備で必要十分な量を携行し、
軽快に移動出来るようにしておく事が、大会では特に大切です。
効用そのB 臨機応変の釣りが学べます。
キス釣り大会では、いつも良い海況の下で釣りを出来るとは限りません。
釣り場に着いたら大雨が降って海が濁っていたり、大波が打ち寄せていたりと海況はさまざまで、
ベタ凪で無風状態の下で快適に釣りを出来る事のほうがむしろ少ないと言えます。
プライベートの釣りでは先ず竿を出さないような荒れた海況でも大会は行われる事がままあり、
このような海況下では上手、下手の差が縮まり、時にはビキナーズラックも有り得る状況ですが、
やはり悪天候下でも仕掛けの扱いが手馴れたベテランが有利で、ビキナーは翻弄されるばかりで
釣りになっていなかったりする事も見受けます。このような海況下では特に経験が物を言う状況で、
荒れた海況下でも浜全体を見回してみると、少しは波が小さい場所が有ったり、
払い出しが出来ていたりと広大な浜では全体が一様では無く、
少しでも条件の良い場所に入るのも釣りの技術の内で、その選んだ場所で何とか釣ろうと努力しなくては
上位には食い込めないのです。まあ・・このような事は極端な話かも知れませんが、年間を通じるとこのような大会は
何回か有りますし、そのような海況でも臆せず、果敢に辛抱強く気力を持続する事が大切です。
穏やかそうな日でも、「今日は追い風が強くてバックラッシュしやすいからストレートスプールを使おう・・」
とか、「砂紋がきつくてスムーズに引けない海底のようだから、
今日はムクオモリは止めて引き易い海草天秤にしよう・・・」
など、上級者は普段の釣りを基調としながらも少しづつその釣り場、
その時の海況に合わせて調整しているものです。
また、キスの活性や釣れる距離など、投げてみないと判らない場合でも、他人に先駆けていち早く察知し、
キスが良く釣れる仕掛けに変えたり、針に付けるエサの大きさを調整したりと、
上級者は常に良い方向にもってゆこうと海況を読み、キスの動きを読み、
微妙に、時には大胆に、釣り方や道具を変え、対応しています。
結局はこのキスと海への対応を最後まで間違わなかった者の勝ち・・
になることが多く、いきなりゾロゾロ・・と調子良く釣れてそのまま最後までずっとゾロゾロ・・
が続くなんて大会は殆ど無く、大概は開始して1時間もすれば
多くの釣り人のオモリの音でフレッシャーがかかり、キスが散って散発でしか釣れなくなります。
そのような事情から、同じ時間内なら普段のプライベートの釣りの時の半分以下しか釣れない大会が多く、
いつも大会が行われる浜をホームグランドにしてバンバンと釣っておられる方が大会では平均以下・・・
となりえるのもトーナメントの怖い所で、プレッシャーが早くかかり、後はパラパラ・・・程度となった場合でも
集中力を切らさず、確実に調整しつつ、コンスタントに釣る事が出来るかと言う事が鍵となる事も多々あります。
その意味からも、いつも同じ場所で練習するのでは無く、
いろんな釣り場で竿を出してその場所のクセを読み、多くの経験を積みつつ練習をする事は大切です。
私自身も経験が多々ありますが、
ホームグランドでいくら沢山釣る事が出来て「自分はキス釣りが上手になった・・」と得意満面でも、
他の浜でも通用する「手駒」が少ないと、他地方に乗り込んだ時に悲惨な結果が待ち受けています。
効用そのC トーナメントは精神力の訓練も出来ます。
最後に・・・プライベートの釣りでは広い浜で束縛されずにのんびり出来、
お魚と一対一で対話出来るのが投げ釣りの良い所でもあるのですが、
大会では魚との対話よりも他の選手との競い合いの要素が加わり、
むしろその他選手と自分の釣りがどう違うのかも
試合中は読まねばなりません。 決勝戦などはまさに精神力のぶつかりあいの場でもあり、
キスのみを相手に孤軍奮闘では勝てないのも事実で、隣の釣り人の道糸が何処に入っており、
何処を引いているのかを常に注目しているのはもちろん、両隣だけでなく、500メートル先、
もっと言えば浜全体で何処が調子良く釣れているのかを、いつも監視して、時には大胆に大移動も考えたりと
常に頭の回転をしておく必要があります。周囲の中では一番良く釣れていても、遠い場所でバコバコだったら
トップの半分以下の成績の中で戦っていただけ・・・な〜んて事は多々有り、さびきながら遠くまで周囲を観察し、
エサ付けしながら両隣の引き上げて来たキスの数を監視・・ととてもトーナメントでは忙しく、一時も
ホッとしている間が有りません。言葉では簡単なようですが、
そのような事を連続して続けるのが意外と大変なのです。大会によっては予選が2時間、と短い時もありますが、
全日本サーフのクラブ対抗キス釣り選手権などは4〜5時間も試合時間が有ったり、決勝にまで進出すると
予選で遠くから歩いて帰って来てからまた浜を長時間歩き、その後また2〜3時間ガチンコで・・と
余程休養十分で体力が無ければ、気力も続きません。
増して前夜から遠路はるばる一睡もせずに釣り場に乗り込み、
早朝から竿を出しておれば誰でも途中から「切れて」きそうになります。
そこをふんばり、気力、体力を持続し、且つ平常心で釣り続けられる事が大切で、私が尊敬している
横山さんや塩田さんを始め、トップトーナメンターの皆さんはその点で特に傑出しておられ、
いつも大会で上位に顔を並べておられるのはご存知のとうりで、
体力、気力共に充実した、凄い人たちだなぁ・・と感心しつつ、羨ましく思っています。
只、精神力のぶつかりあい・・・と書くと何か神経ピリピリの場のように思われ勝ちで、ポイントの争奪戦や
遠投力の競争の場などと誤解される方もおられるかも知れませんが、
他人の邪魔をしないように紳士的に釣るのが
アマチュアの釣り大会では大前提で、自分が入って与えられたポイントで、
両隣の釣り人に迷惑をかけないように気配りし、投げ、さびける事が出場の最低条件となります。
もちろん誰でも投げミスは有りますが、失敗したら迷惑を掛けた隣人に謝りつつ、
オマツリしないように移動したり、すぐに巻き上げたり出来る、トラブル回避能力も問われます。
自分のオモリが何処に落ちたか判っていないなどは問題外で、
この事が出来なかったり、守れないと大会に出る資格は無い・・と言うより、周囲から拒絶され、
結果として自分が自分の首を絞める事になります。
1回、2回のキャストミスは謝れば済みますが、毎回両隣の釣り人の道糸を跨いで投げたり、
時には良く釣れている釣り人にわざと近寄り、
すぐ横の危険距離から他人の見付けた良く釣れるラインに投げたりする選手が居ますが、そのような行為は
ルール違反以前の問題で、そのような選手が上位入賞したり、仮に優勝しても誰も評価してくれないばかりか、
優勝台に立てたとしても誰も手をたたいて祝福してくれません。
まあ・・プロの試合でもありませんし、仮に優勝したと言っても単純に喜べば良い事で有って、
あくまでもアマチュアの大会・・強引に狭い竿間隔の所に押し入ったり、
他人が釣っておられる良いポイントを横から荒らすような事をしてまで戦う必要はありません。
基本的には皆さん和気藹々と楽しもうと思って出場しているのであって、
競技に真剣になるあまり、無意識にしてもそのような釣りをすることが無い様に、
常に自分の釣りのコントロールを失わないように注意し、他人に迷惑だけはかけないようにしたいものです。
投げ釣り師が一同に会しての技術交流の場でもある・・と言う事を忘れないようにしつつ、
大会の雰囲気や出会いを楽しみに、キス釣りの難しさ、奥深さに悩みながらも、大会毎に得られる体験に期待し、
次の大会を楽しみにしています。