このテーマはかなり前から投げ釣り師の間で論議され、未だ決定的な答えは出て
いないようです。 もちろん私のような者が「投げ釣りは○○側が有利」なんて
決め付けた答えは書けませんが、メールでのご質問で
一番多いのがこのテーマに関する事ですし、
特に初心者の方は悩んでおられる方が多いようですので、
今回は大多数の釣り人が右利きの日本人の場合、右ハンドルと左ハンドルとで
投げ釣りをする場合の有利な面、不利な面を書かせて頂き、ご自分がどのような釣りをされ、
どちらがより適合するのかは投げ釣りをされるご自身に判断してもらおうと思いつつ書いてみました。
このテーマは過去から、「押し付けするな!!」とタブー視される方もおられ、
触れたり記述すると多くの批判を受ける恐れもありますが、
私自身もなるべく多くの文献や先輩の意見をかなり前からまとめつつあり、
率直な意見や感想を書かせて頂きます。
先ず、初めて外国より日本にリールが輸入された頃・・・投げ釣りで現在主流となっているスピニングリールは
全部左巻きでした。 フライフイッシィングやルアー等比較的軽いタックルで軽い疑似餌を
繊細なコントロールとシヤープな竿の振りで飛ばし、疑似餌が着水後は
微妙なアクションで魚を誘う釣りでは利き腕で竿を扱うほうがとても有利だった事情が有りますし、
竿の微妙な操作に比べて比較的単純なリールのハンドルの回転運動をさせるのは必然的に左で・・
となった為で今でもルアーの世界では左が世界的には標準で、
日本人のように大半の釣り人が右巻きで魚を釣る国民は過去から現在まで国際的には珍しいと言えます。
逆に、同時期に輸入された船からのベイトリール、いわゆるタイコ型の大型両軸リールは殆どが右巻きで
これは逆に右が世界標準の仕様です。なぜならば船からの大物狙いのリールですから、とても重いのと
竿のアクションは操作と言うより、ここ一発の魚とのやりとりでは数十キロの魚を相手に
ポンピングが主体で腕よりも腰を前後に屈伸して体ごと竿をあおって魚を寄せる為、腕はどちらでも大差無く、
腰で竿を起こした分の糸を力の強い利き腕で巻くのが理想とされたからだそうです。
と・・このような形態で日本には外国産リールが導入されましたが、
それまで日本人が使っていた鳴門リールなどは
全部右ハンドルで、輸入したメーカーの設計者は「外国人は左利きが多い?」と勝手に解釈し、
右手でハンドルを持ち巻き取る事が多い日本人に合わせて右巻きで設計し直し、リールを発売したようです。
しかし、「本来のルアー用途では左で巻くのが本流である」と欧米から伝えられた事も有り
その後スピニングリールの多くは右左兼用出来るよう、ハンドルをリール本体のどちらにでも取り付けられるように
脱着出来、容易に付け替えられるように工夫され、発売されました。
但し、やはり国内では左右両用リールが開発された後でも殆どのリールは右側にハンドルを
取り付けての出荷が続き、これは現在でも続いています。
これにより、日本では大多数の釣り人が右ハンドル派になったのは言うまでもありません。
幼少の頃、小さなリールを買ってもらって使っていた私も当然右とか左とか考えずに
買ったそのままに右で巻いていましたし、周囲も同様でしたので、右だ左だと考えた事もありませんでした。
しかし・・時代は流れ、日本人も国際化の流れで外国で釣りをしたり、外国の釣技の導入が盛んになると
事情は少し変わって来ます。特に雑誌やテレビ取材で欧米を訪れて釣りをした記者や釣りのエキスパートの方達は
現地で左ハンドルのスピニングリールしか無かった事や左ハンドルの優位性を教えられて帰国し、
雑誌やテレビでその事を語り始めたのです。
「利き腕で竿を繊細かつ力強く扱い、一旦フッキングしたら竿を持ち替えないで
即座にリールの巻き取り動作を開始出来る左巻きが有利だと・・」
この事が語り始めたのはもう30年以上も前の事になりますが、
どんどん日本人が外国に進出して釣りをする人口が増えるにつれ、
その意見は少しつづ釣り人の間に浸透してゆきました。
さて・・投げ釣りの話に戻りますが、投げ釣り界でも投げ釣り創成期のパイオニアであった前全日本サーフ小西会長、
そして海外に同行された釣り人により、投げ釣りでも左巻きが有利であると雑誌や新聞に記事として書かれ、
投げ専用リールにも左右兼用リールが提唱され、今から20年位前には殆どのリールは左右両用又は
同じリールでも右専用、左専用のものが発売されるようになりました。
当時はキスの引き釣りでは竿で半円を描くようにじっくりと仕掛けを引いてアタリを取り、
引いた分だけ巻き取りまた竿を戻す、「ポンピング」釣法が主流でした。
当然腕の動きは多く、ナイロンラインしか無かった事も有り、
アタリは微細で神経を尖らせていても1号のナイロンの道糸で
100メートル先のキスからのアタリを取る事は困難でした。
未だ竿はグラスロッドで重く、カーボン竿が出てからも今の竿のような軽量な仕様では無く、
そのような事情から力が強くて繊細なアタリを感じ取れる利き腕で竿を持ち、
竿を持ち替えずに左手でリールを巻く事はとても有利であり、会長自ら実践されたせいもあり、
一気にキスの引き釣り師の間では左巻きが有利だと言う意見が広まってゆきました。
特にこの頃は徳島のサーフクラブの皆さんがキス釣り大会で大活躍された頃で有り、
徳島協会のクラブが全国大会でも連戦連勝で阿波釣法と呼ばれる程、釣技を磨かれていました。
その頃に徳島鱗友サーフを牽引されていた寺沢氏、松本氏、
そして現在も大活躍されておられる瀬尾氏、徳島セントラルサーフの塩田氏・・と
全国的に有名なキス釣り師の方が左巻きで釣るようになられ、(もしかしたら転向されたのかもしれないが・)
何年も連続して全国制覇された頃で、その方達が書かれた著書でも左巻きの有利さを提唱・・と言うより、
「利き腕でないと重い竿を一日さびいておられない、
そして持ち替えのロスも一日何回も繰り返すキスの引き釣りでは無視出来ず、
左手でリールのハンドルを回さないとムダな動作を何回もする・・」
と左手巻きを強く勧められ、この頃にキスの引き釣りを始められた
全日本サーフのキス釣り師の多くが右手巻きから転向され、左で巻く釣り方で練習を始められたようです。
実は私もこの頃に投げ釣りを本格的に始めた頃でそれまでは右巻き一辺倒でしたが、
キス釣りの神様のような方の本を読んだ事もあり、
試しにやってみよう・・と左右両用の投げ専リールを買い求め、
早速ハンドルを左に付け替えて釣り場に行ったものでした。
結果は・・・もちろん最初は慣れない左手で巻くと、ギクシャクして
いわゆる「三角巻き」になり、かなり戸惑いました。
「慣れるのかなぁ・・と半信半疑でしたが、当時雑誌に書かれていた「半日も真剣に釣りをしたら慣れる」
「一旦左に慣れると、竿の持ち替えの無駄がはっきりと理解出来てもう右には戻れなくなる。」と
本に書かれていたのを信じ、殆ど釣れないのに一日中竿を持ち続け、
投げ返しの繰り返しをしていたら、いつのまにやら「三角巻き」は解消し、
クルクルと自然に巻けるようになりました。
それからは・・一度も右に戻そうと思った事は無く、ずっと左党で通していますが、
やはり個人的には竿の持ち替えのわずらわしさが無く、
一日中釣っても疲れにくくてしっかりと利き腕で竿を操作出来る左手巻きは有利だと思います。
また、無理に釣友には勧めませんが、右巻きしているのを見ていると
「利き腕で重い竿を保持したほうが楽で持ち替えもいらないのに・・」と時折思ったりしますね・・。
特に、最近使っているキス用リールのテクニウムMgはベールレスで
投げたら糸をベールアームに引っ掛けなければなりません。
この場合は右手で竿を持ち左手で糸をつまんで引っ掛ける場合は
慣れるとベールアーム付近に糸をつまんだ指を持ってゆくだけで
ハンドルの重みで海側から手前にベールアームが回転して来て容易に「サッ」と引っ掛けられますが、
これが右手の場合はそこに糸をつまんだ指を近づけてもベールアームが海側へ逃げる方向に回転してゆくので
引っ掛けるのに苦労している人を見掛けます。更に、投入直後は左手で竿を持ち、
糸を引っ掛ける時は竿を左手に持ち替えて右手指で糸を引っ掛け、それからハンドルを持ち
巻き上げ・・・と大変です。
仮にアームに糸を引っ掛けやすい左手で糸をつまむと竿の持ち替えを2回行わねばならず、ますます大変ですので、
右党の方にはこのリールは使いこなすのに苦労すると思います。
まあ・・これは一寸特殊な例ですが、最初は戸惑いますが、
一旦左巻きにすると右に戻す人が殆ど居られない事情からすると
キスの引き釣りでは左巻きが有利なようです。 また、最近はポンピングさびきをせず、
竿を垂直に立ててリールサビキをされる方が大半ですが、
この場合はポンピングサビキに比べて利き腕への負担は減りますが、
やはり一日中竿を手持ちで行うキスの引き釣りでは利き腕で竿を持ち続けたほうが楽だと思います。
左手への負荷は、キスの引き釣りの場合はどんなに沢山キスが掛かっても
数百グラム程度ですし、利き腕で無い左手でも十分一日巻き続けられます。
と・・このように書くと投げ釣りでは左巻きばかりが有利なように思われますが、これが磯投げなど、大物狙いでは
事情が少し変わって来ます。
と・・言うのも投げの大物狙いでは大きくて重い魚を巻き上げるだけでなく、
きついカケアガリに仕掛けを掛けないように超高速で巻き上げたり、
大きな流れ藻を強引に巻き取らねばならない事も多々有り、
高負荷がリールのハンドルにかかる場合は利き腕でハンドルを巻き取るほうがスムーズに
楽に巻き取れます。また、大物狙いでは玉網を携行する事が多くなりますが、
この玉網が竿以上に重く、特に高い波止から使うような6メートルクラスと
なると重量も2キロ近くになり、これは利き腕でないと支えられないばかりか、
不自由で慣れない左腕では左右に走る魚をきっちり玉網に収められません。
また、一旦大物が玉網に納まると、時には重さが5キロ近くともなり、この点でも
無意識に利き腕で玉網を扱う事になります。
当然竿は左腕で持って魚を寄せる事になりますので、大物投げ釣り師はこの点から右巻き党が多くおられます。
また、大物釣りでは竿は一本だけと言う事は少なく、左手で投げた直後の竿を保持しつつ
三脚の竿の並べ替えをリールのハンドルから手を離し、右手で行うような事も多々有りますので器用な右手を
比較的自由に使える右巻きが有利なようです。
置き竿での大物狙いでは竿の持ち替えもエサ取りが激しくて投げ返しの多い場合を除いて
常に投げ返しているキスの引き釣りよりは少ないですし、持ち替えロスの度合いも薄れるようで、
キス釣り党と大物狙い党では当然右巻きと左巻きの比率は逆転しているのが現状です。
それが証拠にシマノのカタログを見てもテクニウム、テクニウムMg、チタニウム、XT-SS、XTは
カタログの写真では左側にハンドルを取り付けた写真で掲載されていますし、
EV、FV、等の万能型リールやパワーエアロ等の大物志向のリ−ルは右側にハンドルを取り付けた
写真で掲載されています。
と・・言う事で右ハンドルにも利点が有ります。
それを今まで慣れ親しんだ方法から無理に転向しようとする場合
特に長年投げ釣りをして来た釣り人程、転向するのに苦労します。
未だこれから釣りを始める方で特にキスの引き釣りをこれからしたいと
言われる方には聞かれた場合のみ左巻きをお勧めしますが、
同時に右巻きの利点も説明し、どちらにするかはその人の釣り方
主な対象魚で判断してもらうようにしています。
投げ北チームでも右党、左党に分かれており、いつも議論していますが、
無理に転向する事は単にリールのハンドルの左右の違いだけの問題だけでなく、
竿の扱いやアタリの感じ方、リールさびきの時の微妙な感覚や
速度など、キスの引き釣りに大切な根本的な事にも多大な影響を与えてしまいますので、
特に長年投げ釣りをしておられる方には「慣れておられる方法が・・」と
無理に転向するようにはお勧めはしておりません。
と・・ここまで私なりにリールの右巻き、左巻きについて、投げ釣りの歴史や利点、欠点について
書いて来ましたが、やはりメーカーのカタログ等での提唱力は強く、
キスの引き釣りではカタログ写真のように左巻きが、大物狙いやカレイ釣りでは右巻きが主流で、
暫くは推移しそうな感じです。テクニウムMgのようなリールの仕様によって事情が変わる可能性も有りますし、
現在でもインストラクターやカタログの影響は大きく、今後も私なりに考えたり、皆さんからもいろんなご意見を
頂きながら、興味を持ってこのテーマを考えてみたいと思っています。