もうすぐ4月。キスは未だ深い場所に潜んでいる頃ですが、
後1ヶ月もするとまた砂浜に戻って来て、私たちキスの数釣りファンを
楽しませてくれるようになります。
5月も末になれば全国各地でキス釣りトーナメントが開幕。
私も毎年数多くの大会に出向きます。4月は大会での上位入賞を夢見つつ、
準備期間となり、毎週のように海に出掛けてキャスティング練習。そして
数多く必要となる仕掛け作りに精を出すようになります。
そのキスの数釣り仕掛けの中で最も重要なのがキス針。
近年ではキスの数釣り専用針を各メーカーが競って開発し、いろんな形の針が生まれ、
販売にしのぎを削っています。
毎年何種類もの針が発売されているのが現状であり、今やその種類は50品種は下らないと思います。
そのような現状ですので、私も毎年数多くの針を各号数取り揃え、トーナメント前や時にはぶっつけ本番でテストし、
吟味していますが、それぞれに特徴が有り、掛かりは良いがキスがバレ易い物が有ったり、
掛かりはいまいちだが、キスのキープ率が高いもの、
エサが刺し易いもの、キスが外し難いもの・・など使い込んで特徴を把握し、
釣り場やキスの大きさ、活性に合わせて使い分けるようにしています。
特にトーナメントでは1匹のピンギスが勝敗を分ける事も有り、
釣り場に応じてそこに居るキスの状況に合わせてシビアに針選びをし、
使い分けないといけません。投げ釣りタックルは投げ竿、リール、道糸などが
どうしても注目される傾向がありますが、キスとの唯一の接点は針であり、
針を無視していい加減に使っているようでは
トーナメントで良い成績は得られません。
新しく開発され、特徴を大々的にアピールし、発売されたは良いが、
掛かりが悪くてバレが多発し、全く売れなくなった針も見てきました。
そんな百花繚乱状態のキス針がずらりと店頭に並ぶ状況下で私も良く悩みますが、
安易な針選びでもキスはある程度は釣れるので、余計に難しく感じる昨今。
しかし、針を的確に、理論的に考察し、分析すると針の特徴や欠点などが見出せるようになります。
今回はキス針を今一度見直し、小型キスが良く掛かるもの、大型キスが来ても
キープ率が高いものなど、私の経験や釣友から寄せられる評価などを含めて
私なりの見解を書きたいと思いますが、基本的に
キスの数釣り針の必要条件とは・・。
キスの数釣りではアタリが出ても決してあわせず、
周囲のキスを驚かさないようにして追い食いを誘いつつ釣ります。
この「あわせ無い」と言う、他の釣りに無い特徴があります。
完全に向こうあわせの釣りであり、掛かりの良さと、
一旦掛かったキスを逃し難さの性能が特に要求されます。
従ってキスの数釣り専用針には以下のCつの条件が必要です。
@ 鋭くてなまり難い針先。
例え小さなキスが食って来ても反転して走るだけで向こうアワセで掛かる鋭い針先が必要。
また、キスの数釣りでは砂地の海底を延々とさびくので、針先が砂と擦れて
磨耗しますが、なるべく硬くてなまり難い材質や焼きの針が必要です。
キスは大きくても30センチ程度で引っ張る力は知れていますので、
材質がバネのように粘るタイプの材質の針は必要ありません。
A 狭いフトコロ
キスの口はオチョボ口で小さく、虫エサを吸い込むように食うので、
広いフトコロの針は適していません。特にキスが小型の場合は
重要な要素となります。
B 少し長めで細い軸。
キスが大きくても小さくても軸の長さによる食いの違いは案外少ないものです。
相手が小さいからと、短軸の針を使ってもハリスを結んでいる状態では
キスからすれば長大な軸と同じです。
キスはハリスを結んだ状態では針の横方向から
食って来ても吸い込めません。よって虫エサがまっすぐに、
少し長めに刺せる長軸の針が良いと思います。長軸の針はつまみ易く、
エサを刺す時やキスを外す時に手返し良く扱えます。
また、ある程度の強度を満たしていれば、なるべく細い軸の針が
適しています。当然ながら太い軸の針よりも
細い軸の針のほうが針先のテーパー角度を浅く、鋭く出来るので
キスの口に抵抗無く鋭く刺さります。
C 引っ張る方向と合致した針先角度。
これは言葉では難しいので図で示します。
先ずエサを刺して未だ仕掛けを引いてさびいている時の針の様子は、大体青で示した状態となり、
針先の角度はA軸で示すようにが少し斜めの状態でゆらゆらと上方に海底を引かれてゆきます。
この状態からキスが掛かるとエサの数百倍の重量が針先にかかり、
針先がキスの口を貫通してゆく瞬間には
針が黒の矢印の方向に移動し、黒で示した状態になります。
すると、針先の角度はB軸で示した角度になります。
私が思っている理想的な針先の角度とは、針の針元に対してまっすぐに向いた針であり、
キスがエサを吸い込んで逃げようと走ると
針先がキスの口に対して垂直に近い角度で刺さる針先角度の針です。
針先がB軸の線の上にある事が理想であり、最も抵抗が少なく、
深く刺さります。
仕掛けをさびく事によって針は上方に移動して更に深く刺さり、
針の返しがキスの口を貫通するとバレも無く、無事にキスを取り込む事が出来ます。
仮に軸に対して針先が外に広がった針や極端に内向きの針の場合は、
キスの口が刺さった瞬間は針先が仕掛けを引く方向の角度に近くて早く、
深く刺さりそうですが、この場合も同様にすぐに針は黒で示した位置に移動します。
そうするとせっかくキスが針先に掛かっても針先が赤の破線の角度から斜めになってしまい、
針先がキスの口に対して垂直にはならず、斜めに刺さる角度となってなかなか深く刺さりません。
アタリが出たら強くアワセを入れる釣りの場合やアイナメなど、口深くにエサを呑む魚にらば
無理やりにでも刺さるでしょうが、
向こうアワセでキスの反転する時の力とユックリしたさびきによる引く力だけできっちりと
掛けなくてはならないキスの数釣りの場合は僅かに引っ掛けただけの状態となり、針が深く刺さらず、
少しキスが暴れるだけで簡単にバレてしまいます。このような針はキスが掛かった瞬間に
図の最下部に示す矢印のA方向に大きく軸が移動し、余計にキスの口にまっすぐに刺さらなくなりますので、
高速さびきでガンガンと釣れる時以外はバレが多発します。
少しでもテンションが緩んだり、波打ち際で波に仕掛けが揉まれるとポロリポロリッとキスが外れてしまいます。
従って以前には軸に対して外に広げた、一見攻撃的に見える針が数年前から出回り始めましたが、
「アタリが出るが乗らない」とすぐに欠点が露呈し、トーナメンターから嫌われてしまった針もありました。
このような理由から、
極端に針先の角度がB軸から斜めとなる針はキスの数釣り針としては失格だと思います。
このことは、以下のスポンジをキスの口に見立てた実験でも一目瞭然です。
針をスポンジに垂直に刺すと針は抵抗無く刺さるのでスポンジは凹まず容易に貫通します。
針をスポンジに対して斜めに押し当ててしまうとスポンジが凹むだけで
針はなかなか貫通しません。針先が針元方向に向いていない針は全てこのような状態になり易くなります。
また、針先が軸に対して外に向かっている針のもう一つの欠点は磨耗しやすい
事。針先が外に曲げてあるほど砂との接触が多くなり、早く磨耗してしまう傾向にあります。
以上の条件を満たす私の現用針。
以上、キス針の必要条件を述べましたが、以下は、
関西の主なキス釣り場とそこで良く使われている針との関連性や特徴を書きます。
これらの針は私が使って来た経験上、キス針に求められる性能をほぼ満たす針であり、
その地方でもベテランキス釣り師の皆さんが推奨して使っておられるもので、
初めての釣り場でも安心して使えるものです。
@
鳥取砂丘、弓ヶ浜、三里浜など山陰、北陸地方などで比較的良型が混じる時に向く針。
キスRやキステックなどセイゴ針の形を基本とした針。
鳥取、山陰地方の広大な砂浜では大会が行われる6〜8月の盛期は以外とキスが小さく、
平均15センチ程度。それに時折20センチオーバーが混じります。
トーナメンターはピンギスを数釣って重量を稼ぐか、
一発20センチオーバーを仕留めて逆転を狙うか、思案しつつのトーナメントとなります。
エサは良型狙いにチロリ、小型の数釣りにイシゴカイとキスの型に応じて使い分ける釣りとなり、頭を悩ませます。
この針は軸が長く、大きめのチロリを刺すのに都合が良いですし、フトコロはあまり広く無いので
小型キスが食って来ても案外良く掛かります。
軸が長目なので針をつまみやすく、キスが良く食う時にも手返し良く釣る事が出来ます。
針先はほぼ針元に向かっており、針先から曲がりの部分までが長くて
深く刺さるのでウネリの強い条件下でもバレが少ない。
私の経験上この針よりも針先が外に向いている針はキスの数釣りに適さない。
A 四国の太平洋側、若狭湾の砂浜で小型主体の時。
秋田キツネ、アスリートキスなどキツネ針の形を基本とした針。
四国、特にトーナメントが多く行われる徳島や若狭湾内では遠浅の浜が多く、
いわゆるピンギスと呼ばれる小型が大半です。
エサは専らイシゴカイが使われ、型よりも数を競うトーナメントとなります。
従ってフトコロの狭い、小型キスが吸い込み易い針が適しています。
この針は針先がまっすぐに針元に向かっており、
例え仕掛けを静止させていても小型キスが反転するだけで針先が垂直に刺さり、
弱い力でキスの口を貫通させる事が出来る理想的な針である。
元来外道は少ない地域なので短軸でも不利にはならず、徳島のベテランキャスターの信頼も高い。
キツネ型の針は元来、タナゴやフナなどを狙う為の古典針であり、
投げ釣り用として開発された針では無いが、
私は小型キスには最も適した針だと思っています。
特に秋田キツネは数多くのキスの競技用針が
販売されている現在でもトーナメンターが最も使っている針であると思います。
軸に対して針先が外に向いていないので磨耗が少ない。
B 淡路、四国の瀬戸内側。
キス競技用ヒネリやシロギスファイン、
短めの軸の針ではキススペシャルやキスリベロなど。袖針の形を基本とした針。
淡路島、四国の瀬戸内側は総じてキスの型が良く、20センチ近い良型も多い。
しかしキス以上に多いのが20センチ程度のメゴチやキューセン、マダイの子供、ハオコゼ、
小型のフグなどでキス1匹を釣るのにこれらの外道が10匹以上も掛かってしまうことが多々あります。
そんな外道に呑み込まれても強いのがこの針で、長い軸の針はとてもつまみ易く、
且つ完全に呑まれる事も少なくて外道を外し易い。また、真っ直ぐの軸はエサを刺し易い。
針先は針元には向いていないように見えるが針先の近くではほぼ真上より少し内向きに向かっているので、
針先がキスの口に対して垂直に刺さりやすく、以外と深く刺さるのでバレは少ない。
長い軸の針なので小型には不利と思われがちだが、使ってみると意外に小型も良く掛かる。
軸が長いので、エサを長めに付けてキスを誘う釣り方をする時にも効果的な針です。
もう少し軸の短い袖針の形を踏襲したキススペシャルやキスリベロは外道が多い場所には不向きですが、
細軸で更に掛かりは良くなっていますし、大会などで仕方なく波口のピンを拾う場合などに好適です。
おまけ
使ってダメだった針の例。敢えて針の名称は控えますが、
形を見ただけですぐに名前が頭に浮かんだ釣り人は多い?。
岩か何かに掛かって伸びたような形状で、不思議と
未だに信者の方も居られますが、上図による理論からして
針先の角度が針元方向に向いておらず、大きく外側に曲がった形状。
キスが掛かった瞬間に軸がA方向に大きくズレ、結果、
針先はキスの口元を斜めに引っ掻くだけで深く刺さらず、
腹まで完全に呑んだ時以外はバレが多発する針です。
速攻、深く刺さる針として開発、発売されたが、
針先を意図的に外に大きく曲げてあり、キスの口に垂直に刺さらないので
完全に腹まで呑んだ場合は釣れるが、口掛かりの場合は一旦掛かるが
深く刺さらずバレ多発。
キスの口に針先が刺さった瞬間の角度変化を無視した設計であり、
奇をてらった物珍しさで発売当初は売れたが
1シーズンで殆どのトーナメンターからダメ出しを食らった針。
掛けても即リリースする大会の下見では波口でポロポロ外れる
のでキスを外す手間が省けて便利だと、下見の時だけ使うと言う人も居る位。
画像で見てもキスが触った瞬間に軸が左方向に移動し、針先がソッポを向いてしまい、
針元に対して完全に斜めになっているので
刺さって行く角度も斜めにしかならないのが上の図解で判ると思います。
針先が外向きなので海底の砂との接触も多く、磨耗も早め。
唯一の長所は外に向いた針先なのでエサがとても刺し易い事。
メーカーは「ノド奥に掛かるからバラシが少ない」と謳っているが、針先の角度的に
ノド奥や胃袋にしか掛かりませんのでキスがエサを深くまで吸い込まない時は高い確率でバレます。
他にもこのような形状の針が発売されているので要注意です。
いろいろと書きましたが、いろんな針を使って来て得られた結論・・
「何十種類の針が発売されているが、ロングセラーのキス専用針は古典針の形、袖針やキツネ針の形や
針先の角度をほぼ継承している。」と言う事。
古典針が持つ、形や針先角度による基本性能は素晴らしいし、
大きくヒネリを入れたり、針先の角度を開いたりと逆に逸脱したものは眉唾物が多いと思います。
そんな意味で、材質改良による強度アップや細軸化は歓迎するけど、
新製品と言えど今まで見た事が無い形の針は先ず疑い、使って試し、検証して見る必要が有りそうですし、
迷ったら古典針、古くから有る針ですが、秋田キツネや袖針は安心して使えますし、性能も素晴らしい。
針の基本性能を決定づける形や針先角度は何十年も前に研究しつくされ、
完成していたと今更ながら思えるのです。